2021年11月21日日曜日

北上種

果たして、本当にそういう言葉があるのかどうか。ふと思いついた言葉。「北上種」。岩手県北上のことではなくて「ほくじょう種」。このところ、「本来ならば南方で生息する種なのだがこちらでも見られるようになった」という種があまりにも多い。陸上だけではなく、海の中でも同様だそうです。東京湾で沖縄サンゴ礁の魚が見つかった。そのような話がときおり話題に上ります。昆虫だと、たとえばツマグロヒョウモン。これは南方の高原で見られる蝶。これが関東地方でも普通に見られるようになりました。これには幼虫が食べる植物(食草)が都市部で豊富だということもありそうです。食草の代表格はパンジー。都会でパンジーがたくさん生えているのを見つけたんですね。ツマグロヒョウモンは。この幼虫、黒で赤い棘のようなものが全身にはえているなかなか毒々しい姿だけど、案に反して毒は一切ありません。直接触ってもきっと大丈夫ですよ。

この写真は、リュウキュウサンショウクイ。名前が示すように、もともと南九州や沖縄方面で生息していたサンショウクイという野鳥の亜種です(別の種とされていることもあるそうです)。このリュウキュウサンショウクイの北上が最近各地で確認されています。南関東でも同様で、秦野市では営巣し繁殖したという報告もあります。
どちらかと言うと高木の梢あたりが好きなようで、なかなか写真におさめさせてくれません。これはラッキーでした。サンショウクイという名前は、鳴き声にあるようです。「チリチリチリチリ・・・」そんな感じ。山椒を食べたら刺激が強くてチリチリチリチリする。そんないわれで山椒喰いという名前をいただいたそうです。サンショウクイもリュウキュウサンショウクイもチリチリ鳴きます。ただし周波数成分が微妙に違うという話もあります。
さて、なんでリュウキュウサンショウクイが北上しているのか。地球温暖化の影響はやはりあるのでしょうね。このような生物の北上がどのような影響を環境に与えるのか。これは専門家にゆだねるしかないことです。
谷川俊太郎さんの「鳥」という詩を思いだしました。

鳥は虫を名付けない
鳥は虫を食べるだけだ

鳥は愛を名付けない
鳥はただふたりで生きてゆくだけだ

この詩になぞらえていうのならば、

鳥は地球環境を憂えない
鳥は地球環境に適応するだけだ

あらゆる北上種が確認されています。これは何のことはない、環境変化に対してしなやかに適応し、種をつないでいく。まさにダーウィンの進化論を地で行く話がただ単に展開しているだけなのでしょう。鳥にとっては。その結果がどうなるか、それは預かり知るところではありません。リュウキュウサンショウクイも同じです。環境が変わってきたから単純に北に居を移して変わる環境に適応しただけ。そして適応できない種は衰退し絶滅に向かうだけ。


さて、人は、どうすればいいのでしょうか。地球温暖化は人の営みによって排出される二酸化炭素やメタンガスの影響がもはや否定することは不合理だ、と国連の関連機関は指摘しています。人は、リュウキュウサンショウクイのように変化する環境に適応できるのでしょうか。到底私にはわかりません。

人も鳥と同じように、多くの生きものと同じように人も人の気持ちの赴くままにただ単に環境の変化に適応していけばいいのでしょうか。人は他の生きものと違って地球環境全体に影響を及ぼす存在になってしまったのがほぼ確実だというのに。そして、種としての繁栄をつづけるのか、それとも滅亡へ向かうのか。すべてを進化と言う摂理にゆだねるのか。

次の写真は2011年4月30日に撮影したサンショウクイです。サンショウクイは夏に北に渡り冬に南に帰る渡り鳥です。一方、リュウキュウサンショウクイは一年中新天地にとどまっている様子がうかがえます。


2021年11月14日日曜日

住宅難

おそらく人にとって最も身近ないきものの一つでしょう。このとりさん、見知らぬ人はほとんどいないのではないでしょうか。そう、スズメです。かなり動きが激しく警戒心もそれなりにある野鳥ですから、意外と撮影にちょっとてこずることもあります。今日は、思いきり見つめられてしまいました。撮影したときはシャッターを切るのに手いっぱいだったのですが、なんとなく絵になっているかな。目の周りが黒い鳥。カラスとかスズメとか、黒ではないけど黒に近い色をしたツバメとか、目の中に光の反射を入れるとより生き生きとした絵になります。
おそらくスズメの視線は完全に私をとらえていたでしょうね。ちょっと対話しているような感じになりました。
「あのねえ、このところずっと住宅難で困っちゃっているんですよ。」
「えっ?スズメのお宿の問題?」
「まあ、お宿というか、住みかと言うか。子育ての場と言うか。」
どうもスズメの営巣場所難は都市部でかなり深刻なようです。住宅の構造が変わって軒下という絶好の営巣場所が次々と無くなっているから。この撮影場所の周囲でも例えば交通信号機のパイプの中で営巣しているような事例すらあります。向井潤吉画伯が遺された藁ぶき屋根の古民家の時代はスズメが巣作りをする場所もたくさんあったのでしょう。昭和の木造家屋でもまだ軒下にスズメの営巣に向いた隙間があったはずです。でも今の住宅は隙間なし。それは断熱効果、省エネルギーの観点からは大いに合理性があります。しかし、スズメにとっては迷惑な状況。
スズメは、人が作り出した環境に適応し、人と寄りそう形で種をつないできたいきものです。人が自らの住居と言う環境を変貌させるという新たな環境変化にまさに晒されているということです。この環境の変化にスズメはどのような適応をしていくのか、進化するのか。
「なあなあ、なんだか面倒なことになっているみたいだよ。」
「そういえば、じいさんとかばあさんとか言っていたよな。昔は巣を作る場所に苦労はしなかったって。」
とか会話をしている、わけないですね。
スズメというありきたりなとりさんだけど、実際に撮影すると結構美しさのようなものも感じます。人の暮らしの風景にとても良く似合って。


2021年11月7日日曜日

ジビエ料理の季節へと

11月15日は、狩猟解禁日です。日本では、いや日本でも、と言う方が正しいでしょう。日本でも狩猟の対象として認められた野生動物は限られています。食用のため、生態系のバランスを取るため。農林業被害を抑制するためなどの背景があるはずです。鴨の仲間は、食用に供されることが多いのではないでしょうか。もちろんどこでも狩猟をしていいわけではありません。鳥獣保護区、休猟指定地域などでは厳格に狩猟は禁止されています。また、誰でも狩猟をしていいわけではありません。許可を得なくてはなりません。

カモ類の狩猟は散弾銃などを使った猟法のほかに、網を使った猟法もあります。たしか石川県だったか。網を空にかざして飛び立ったカモ類を捕獲するのです。なんていう猟法だったかな。ああ、坂網猟と言うのですね。散弾、つまり鉛玉を受けていないと、珍重されると聞きました。また、この猟で使うのはカスミ網ではありません。
こんなかわいい鴨を食べるなんて残酷な、という人の気持ちもよくわかります。一方で「アオクビはことさらに美味いんだよな」と言いたくなる人の気持ちもよくわかります。アオクビとは、マガモのオスのことです。現代は、「命をいただく」ことを実感できる機会がほとんどなくなった人がとても多いのではないでしょうか。マガモの姿を見ながら、心のなかで、「食べるなんて残酷だよな」という気持ちと「でも食べると美味いらしいよ」という気持ちの葛藤をむしろ楽しんでしまっても良さそうです。晩秋は哲学者みたいな気分に浸るのも悪くはないと思います。

今日は、いつもの場所に、マガモのオスが二羽、メスが二羽いました。この場所はもともと海洋性のカモであるキンクロハジロは多く渡来するのですが、マガモなど陸性のカモは比較的渡来数が少ないのです。なんだ、マガモが四羽ぽっちか、と思われる人も多いでしょうね。

横一列のマガモのメスとオス。後ろ側にいるのはカルガモです。ともに狩猟対象の野鳥です。聞くところによると、カルガモはあまり美味くないとか。どうなんでしょうね。
このような立派な翼で日本海を渡ってくる(一部日本でも繁殖が確認されているようですが)マガモ。夏はシベリア方面に渡って繁殖します。日本には冬場にやってきます。
鴨は正面顔がまたなんとも愛嬌があっていいですよね。
マガモ。これもありきたりの野鳥です。でもよく見てみると、美しい野鳥です。渡来してすぐは夏羽から冬羽に置き換わる時期で今一つの色合いですが、今頃の時期になるとすっかり冬の姿に装いを整えます。ちなみに、この場所は、禁猟区です。